SSブログ

サイエンスカフェをふりかえる [科学コミュニケーション]

 サイエンスカフェがどんどん広がりを見せている。僕が仲間と初めて「サイエンスカフェ」と銘打ったイベントをしたのは、2005年の5月のこと。大学の学園祭でだった。当時日本では、科学政策研究所の報告書などでイギリスのカフェ・シアンティフィクが紹介されてはいたものの、実際に開催しているところは皆無に等しかった。せっかくなので、サイエンスカフェをやってみよう、しかも僕ら学生がスピーカーになろうと決めたのが、学園祭の申し込み締め切りぎりぎりの2月か3月だった。ほぼ時を同じくして、日本科学未来館や財団法人、NPO法人などによるサイエンスカフェが開かれるようになり、火がつき始めたように見えた。僕もサイエンスカフェのシンポジウムに行ったり、「ワンドリンク付講演会からの脱却」を訴え、「科学をおやつにお茶しませんか」を売り文句にしたりした。
 そして、次に大きな盛り上がりを見せたのは、2006年4月の科学技術週間だ。科学技術振興機構と日本学術会議の主催で、全国21ケ所でサイエンスカフェが開かれた。このときは、サイエンスカフェの経験のある団体・個人がローカルオーガナイザーとなって企画・運営を行い、僕も札幌のカフェで開催した。ローカルオーガナイザーも、大学、NPO法人、任意団体とさまざまであり、僕らも含め多くの学生が加わっていたのも特徴的なことだろう。
 その甲斐もあってか、中身を問わなければ、「サイエンスカフェ」と称するイベントは全国各地に広がりつつあり、なかなかすべてを追いかけるのも難しくなってきたくらいだ。定期的におこなっているところでも、すぐ思いつくだけで、札幌、仙台、下北沢、京都・・・などの都市で開催されているし、そうでない地域でも僕らの「サイエンスカフェin松江」のように出張して開催するという方法もある。
 ある意味根付いてきたかのように見えるサイエンスカフェだが、気になることがひとつある。それはほとんどのサイエンスカフェが、研究者側による主催であるということである。もちろんお客さんに喜んでいただいていればそれでいいのだが、まだ研究者によるアウトリーチの一環という枠の中にあって、サイエンスカフェという場をデザインしているのはお客さんではないのだ。サイエンスが文化として根付くために、研究者が主体とならなくても、科学をおやつにお茶にする雰囲気がつくれないかと思っている。
 でも望みはある。たとえば、天文普及団体「天文学とプラネタリウム」は、国立天文台がある三鷹という場所を生かして、地域密着型の天文普及活動を展開している。地元の方々、とくに子供を持つお母さん方と連携しており、地域を主体としたサイエンスコミュニケーションのモデルになりうるものである。また、僕が参加した活動でも、参加者や地域の方からまた開催したいとの声をいただいたことも多い。僕の理想を言えば、僕らの出張サイエンスカフェがきっかけとなって、今度は地域の方が自らサイエンスカフェを企画するということがおきないかと期待している。新宿の立ち飲み屋でやった「サイエンス居酒屋」も、ぜひとも次回をとの希望が出ているらしい。サイエンスに興味があるから参加するのではなくて、居酒屋という日常のコミュニケーションの中にサイエンスがあるというスタイルも、広がっていってほしいと思う。
 そんな中、さらに面白い試みに挑戦する人も出てきた。東大大学院生の渡辺よしひろさんだ。彼は今度の文京区議会選挙に立候補するそうで、大学と地域との交流スペース「文京カフェ」構想をマニフェストに掲げている。担当の人が二年前のサイエンスカフェのサイトを見てくださって興味を持ってもらったようで、僕にも声をかけてもらった。まだどうなるか分からないが、大学と地域、あるいは科学と社会を結ぶ試みが、また新たなステージに立とうとしているのかもしれない。
 それとは別にこんなこともある。家の近くにあるカフェに時々行くのだが、そこのお店の方とサイエンスの話をすることがある。昨晩は閉店間際に行ったためほかにお客さんがいなかったので、話は僕の研究のことになった。そこからナノテクの話や、不確定性原理や、絶縁皮膜はどこまで薄くできるかという話や、田中耕一さんや小柴さんまで出てきて、気づけば閉店時間を過ぎてしまった。こういう場所こそ、理想のサイエンスカフェになりうるかもと思う。
 多少の野心はあったものの、細々とやってきたサイエンスカフェが、とうとうここまできたようだ。今振り返ってみると、手探りながらも初めてのことに挑戦して、ほんとうによかったと感じている。


nice!(2)  コメント(3)  トラックバック(1) 

nice! 2

コメント 3

kagaku

けけみさん
いつもサイエンスカフェの場所探しで苦労しています.
秋葉原で行った第1回のカフェでも,谷中で行った第2回のカフェでも,場所が狭く,しかも場所代を別途取られます.
けけみさんの近くのカフェ,なかなかよさそうですね.
今度紹介してください(そのときはペンギンカフェのように招待制カフェにしようかなあなどとも思います).
by kagaku (2007-04-15 13:36) 

Fujinuki

お久しぶりです。サイエンスカフェ、着々と広まってきましたよね。自分たちで広めようとしてきたものを最近では普通に新聞で見かけるようになって感慨深い(?)です。札幌カフェももう一年前なんですよね~。
けけみさんとの活動も含め、実際にいくつかの企画に携わったので、今年はできたら本場イギリスでサイエンスカフェの視察をできたらーと今動いています。まだ未定ですが。
また一緒に活動できるときがあれば嬉しいです!
by Fujinuki (2007-04-17 15:54) 

けけみ

Tachibanaさん、Fujinukiさん、お久しぶりです。
僕らがサイエンスカフェを開くのもいいのですが、僕らとまったくつながりのないところで、どんどん開催されるようになって来ているのがうれしいです。
by けけみ (2007-04-17 22:29) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。