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自己評価導入へ~学術振興会特別研究員~ [科学と社会]

 独立行政法人日本学術振興会に、特別研究員という制度がある。通称、「学振」だ。博士後期課程の大学院生や、ポストドクター(ポスドク)と呼ばれる若手研究者に対し、研究奨励金(給料のようなもの)を支給するという制度である。経済的な負担を軽減して研究活動に専念させるとともに、優れた才能と意欲を持った学生の博士後期課程への進学を奨励するという、若手研究者の養成および確保を目的としてる。
 すべての分野を合わせて、年間1万2000人の申請者に対し、1600人(18年度募集では1400人)ほどが採用される。毎年、この時期に募集が始まるので、多くの大学院生が申請書書きに追われるのである。
 申請書には、「現在までの研究状況」「これからの研究計画」「研究業績」などを書くのだが、博士課程用の申請書に限り、今年から新たに加わったものがある。それが、「自己評価」の欄だ。先輩などの前例を参考にできないため、何を書けば良いのか分からず苦戦している人も多いだろう。
 この変化は、18年度から選考方法を改善したことによるものだ。しかし、「自己評価」の意図に関しての言及は見つからない。そこで、「自己評価」は何をしようとしているのか、自分の身近なところで、科学技術人材の養成という点に限ってだが、勝手に考えてみたいと思う。

 まず、申請書の自己評価欄の但し書きを見てみる。

5.自己評価
日本学術振興会特別研究員制度は、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的としています。この目的に鑑み、申請者本人による自己評価を次の項目毎に記入すること。
(1)研究職を志望する動機、目指す研究者像、自己の長所等
(2)自己評価する上で、特に重要と思われる事項(特に優れた学業成績,受賞歴,飛び級入学,留学経験,特色ある学外活動など)


 研究者養成・確保という目的に合致しているかを申請者自身が判断せよということである。
 たしかに、「研究計画」の立て方・書き方は研究者として重要な能力を見ていることは間違いない。しかしここで評価したいのは「研究」そのものではなくて、「研究者としての資質」なのである。今日では、個人だけのアイディアというよりはプロジェクト全体として推し進められる研究も多い。そのような場では、研究の意義・特色はプロジェクトの目指すところになってしまう。そのため、評価されているプロジェクトについている人ほど有利になってしまってもおかしくない。これでは、科研費の再配分に近いと言っても言い過ぎではないだろう。
 そこで、「自己評価」の導入は、研究領域のすばらしさではなく、個人の研究者としての素質を評価しようと試みなのではないだろうかと思っている。もちろん、大規模プロジェクトととして推進すべき研究分野もあるだろう。だが、そのようなプロジェクトは、研究費の中から大学院生に給料を払うべきだと思う。それぞれのプロジェクトで、必要な人材(大学院生)を募集し、見合う能力を持った人を雇用するのである。一方、特別研究員のような将来の研究者の養成・確保を目的とするならば、所属機関やプロジェクトに関係なく、個人を評価する仕組みを探っていくべきなのだ。研究分野の流行り廃りではなく、研究の企画立案能力・実行力を正当に評価する方法を検討してもらいたい。その第一歩として、「自己評価」の導入は評価したいと思う。

 さて、自己評価といっても何を評価するのだろうか。まずは研究者としての能力・資質だろう。これには、研究指導者の書く評価書の内容が参考になる。

・研究姿勢・忍耐力
・専門的知識・技量
・着想力・創造力
・コミュニケーション能力
・将来性


だ。

 一方、政府が養成しようとしている研究者像は、以下のようなものだ。

独創性、未知のものへのチャレンジ精神、豊かな感性、主体的な課題設定能力や論理的思考力、国際的なコミュニケーション能力が求められるだろう。また、(中略)強い意志、ねばり強さなど精神的な力もこれまで以上に求められる。さらに、科学技術と社会とのかかわりがますます強まっていることから、社会への説明能力や倫理観も重要になってきている。

自らの専門分野にいたずらに閉じこもるのような蛸壺的な専門性ではなく、周辺の専門分野や全く異なる専門分野を含む多様なものに関心を有し、既存の専門の枠にとらわれないものの見方をしながら自らの研究を行っていく能力であろう。

これからの時代の研究者に最も必要とされる能力は、「幅広い知識を基盤とした高い専門性」であり、これがこれからの時代の研究者に必要とされる「真の専門性」であると考える。

(「世界トップレベルの研究者の養成を目指して -科学技術・学術審議会人材委員会 第一次提言-」2002年7月19日より、適当に抜粋)

 一方、自己評価の(2)自己評価する上で、特に重要と思われる事項に”特色ある学外活動”が掲げられている。昨年の人材委員会の提言では「科学技術と社会という視点に立った人材養成」をテーマとしていたので、研究と社会との接点を見出せる人材かどうかを評価したいのかもしれない。
 上記のような人材に共通して求められる能力としては、研究開発活動への関与の度合い等により程度の差はあるものの、高い専門性に加え、柔軟性、創造力、実践力、マネージメント力、国際対応力、社会とのコミュニケーション力などが考えられる。
(「科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して -科学技術・学術審議会人材委員会 第三次提言- 」2004年7月16日 より、適当に抜粋)
 研究一辺倒ではなく、アウトリーチ、知的財産など、社会への「知」の還元が研究者には求められているため、その能力も研究者に必須のものとなっていくのかもしれない。
 「自己評価」の導入により、研究者養成がどのような方向に進んでいくのか、あるいは何も変わらないのか、注目したいところである。

#ここに書いたことは、個人的な意見と雑感であり、根拠に乏しい部分も含まれています。手元にある人材委員会の提言を読んだだけですし。文章も尻すぼみ。少なくとも、科学者・研究者に求められる資質は変わりつつあるのは間違いないと思います。


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コージー

自己評価欄は指導教員が評価書を書くときの参考資料にもしているようです。指導教員にとっては便利な書類らしい。学生の心の内を覗き見る楽しさもあるようです。私が学振研究員をやってた頃(10年ちかく昔)に比べて申請書類の量が多くなった気がします。気のせいかな?

とてもM2とは思えぬほどしっかりした意見・文章なので驚かされます。最近の院生は精神年齢が高いのだろうか。
by コージー (2005-05-16 22:01) 

けけみ

コージーさま、はじめまして。
 今まで研究者としての素質を書かせるのは、指導教員による評価書だけでした。指導教員の推薦も大事ですが、やはり自分で自分の長所短所を捉えて書くのも大切なことだと思います。おそらく、就職活動をしている人にとっては当たり前のことなのでしょうが。

 あと、僕はM2ではなくてD1です。精神年齢はどうか知りませんが、見た目年齢は高いとよく言われます。
by けけみ (2005-05-16 23:54) 

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